サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』

読んでいる最中、ずっと感傷的で、どの章にも、どの場面にも、ぐっとくる描写があった。いわゆる、共感できた小説だと思う。たぶん、学生時代に読めば、もっと酔っていたと思うし、今も精神年齢は大して変わっていないためか、少し読後の感傷に酔っている感じがする。ちょっとこのタイトルで検索すると、「中二病」とか「青春」とか、「大人は読んじゃダメ」といった言葉が出てくる。大人になる前の青年期特有の心情を描いているということか。

主人公は学校を退学する。学生寮から家に帰る途中、ありったけのお金で思いつくままにふらふらしながら、生じた出来事を一人称で語っていく。無駄に相手を怒らせたり、からかったり、からかわれたり、自暴自棄になったり、突然泣き出したり、優しくなったり、おどおどしたり、馬鹿にしたり、馬鹿にされたり、ということが続く。

時に、支離滅裂で投げやりな語りになったり、出会う大人たちの振る舞いの「インチキ」を非難したり、自暴自棄になって極端な行動に出たり、起きたら先生に頭をなでられて恐ろしくなって逃げ出したり、というエピソードは、確かにどれもこれもが、青年期に、どこか反抗的な気持ちを持って過ごしていたら、共感できるところがあると思う。読んでいて、感傷的になったり、ノスタルジックな気分に浸っている気がしたのは、そういうところなんだろう。

今はこんなことできないな、という諦念があり、こんな風に全部抜け出して社会的なもののすべてから距離を取りたいという欲求、あるいは憧憬とが、同時にある。いつまでも子どもでいたいし、そうすることもできないという感じ。社会やさまざまな関係性から、規範を押しつけられて、縛り付けられている状態から抜け出して、即時的な欲求と不安と幸福感に支配されたい、という感じ。そんなことを考えていると、なんだかふわふわした気持ちになって、なんだか心地よい感覚になる。

落ち込んだ時に読んだら、悪酔いしてしまいそうで、大人は読んじゃダメってのはなんとなくわかる。ふと我に返ると、自分の現状を思い知って、またさらに落ち込みそうで、たちが悪い。そうと分かっていても、また読んでしまいそうな、中毒性がありそうな本だった。