谷崎潤一郎『卍』

同性愛がテーマで、それを大阪弁で独白体で描くところに、特徴がある小説だと思っていた。けれど、読後の率直な感想は、それとは異なって、同性愛や性的不能者を出すことで、恋愛での嫉妬や猜疑心を、とてもとてもねちっこく描く、一種の恋愛小説だと思った。

主人公の女性が、過去の出来事を告白する形で物語が進められる。主人公には「光子」という憧れの女性がいて、まもなく恋愛関係になる。そこに、「光子」と恋仲?にあった「綿貫」という男性がいて、最初は光子をめぐる主人公と綿貫の争いとなる。綿貫も主人公も、光子の真意を測りかねてはいるが、お互いに警戒し合い、欺しあいながら、光子との関係を自分のものにしようと画策する。やがて、主人公の夫も、その関係のただ中に巻き込まれていく。

性的な快楽を度外視して、恋愛関係で求めるものというのは、ただ一緒にいる時間なのか、あるいは独占しているという感覚なのか、相手が自分を欲しているという感覚なのか。互いに欲するものが異なりながらも、同じ恋愛ゲームで泥沼にはまっていく感じが、この本の魅力の1つなのかな。

最後になって、異性間の性的な快楽をベースとすると思われる関係が登場するけれども、その関係ができてから、突然話が異様な展開を見せていき、集結するのは、驚いた。最も理解しやすいような関係が、最もいびつなものに感じられた。