太宰治『富嶽百景』

たぶん太宰本人の、富士山と関係あるエピソードを綴った随筆。青空文庫に入っているのを、kindleで読んだ。なんか太宰の日常や、彼の気取らない考えなどが淡々と書かれていて、おもしろく読んだ。

佐藤春夫の文章を読んで、太宰を怖れていた青年の話も面白い。「太宰さんは、ひどいデカダンで、それに、性格破綻者だ、と佐藤春夫先生の小説に書いてございましたし、まさか、こんなまじめな、ちゃんとしたお方だとは、思いませんでしたから…」という件(kindleはページ数が記載できない)。普通に接する限りは、常識的な人物だったのかしら。でも、そこまで意外だとは思わない。自意識が非常に高くて、繊細な人だったのだと想像している。「私には、誇るべき何もない。学問もない。才能もない。肉体よごれて、心もまづしい。けれども、苦悩だけは、その青年たちに、先生、と言はれて、だまつてそれを受けていいくらゐの、苦悩は、経て来た。」といったところは、なんか太宰のイメージにぴったりくる。

何か特別なことが描かれているわけではない(結婚の話などは出てくるけど)が、馬鹿話をしていたり、景色にいちゃもんつけたり、失敗したりと、なんか普通の人っぽさがにじみ出ていてよい。短かったけど、ちょっと得したような読書体験だった。