三島由紀夫『豊穣の海 春の雪』

気取った描写も含めて面白く読んだ。主人公の女々しい感じや、貴族やその周辺の人々の、一見すると高貴な感じの裏に、しょうもなさがハンパなく出ているところは、非常に面白い。

個人的には、綾倉という貴族?の末裔の家長が、自分のとこで働く年配の女性と関係をもったというところで、その女性が性交渉にも長けていたとか、自分の娘は処女のままでは嫁にやらんことを密かな復讐にするとか、なんかしょうもないとこが三島の文体で延々と書かれると、非常にぐっときた。

貴族の没落とかいうのがこの本の紹介にあったけど、この没落の描き方はとても面白かった。金があって初めて高貴さが保障されるというところは、太宰の『斜陽』を思い出してしまう。実際に、この本で描写されたようなことがあったのだろうか。

主人公の青年は、幼なじみだったか忘れたけど、古い付き合いの聡子という女の子を、まずは突き放して、その後聡子が皇族みたいな人と結婚することになったら、やっぱり好きだと言い始めて、先に出てきた年配女性に手伝ってもらいながら、こっそり会う内に妊娠させてしまう。まとめるとほんとにしょうもない感じだが、しかし聡子自体の心理描写が少なく、なんか最後の出家するあたりまで含めて、神秘的な感じで描かれているように感じた。女性作家が同じあらすじで書いても、こうなるんだろうか。宮崎駿の映画『風立ちぬ』でも、女性側の描写が少ない分、何か少し神秘的な描かれ方をしていた気がしたのを思い出した。まあ、関係性からして全く違うものを比較してもしょうがないけど。

4巻本の1冊だったので、まだまだって感じだし、今後どのように展開していくのか楽しみ。