哲学とは何か――麻生博之氏の導入を読む

麻生博之、城戸淳『哲学の問題群――もういちど考えてみること――』(ナカニシヤ出版、2006)は、テーマごとに哲学の諸問題を紹介しており、やはり現代哲学のすぐれた入門書と言える。この本の「はじめに」で著者の1人、麻生氏が哲学とは何かを「哲学的に考えるとということ」という副題のもとに論説している。

本書のタイトルからも分かるように、麻生氏の基本的な姿勢は、哲学とは「思考の営み」であるということだ。ウィトゲンシュタインの『論考』から「哲学は学説ではなく、活動である」という言葉を引いて、哲学は知を愛し求める思考の活動である点が強調される。

しかし、あらゆる知的活動は思考を伴う。哲学を特徴付けるものは何か。哲学は、日常からかけ離れたものでも、他の学問と断絶したものでもない点を断りつつ、3つのポイントを挙げている。

1つ目は、思考の徹底性である。当たり前のこととして問われない物事に対して、より原理的で、より包括的なあり方を知ろうとする。つまり、前提を問い直すということである。

2つ目は、とらわれから自由でなければならない点だ。通常の学問は、一定程度の探求の前提を共有する。何が存在して、どのような手続きで進めて、といったことが共有されないと、諸学問は成り立たない。ところが、哲学は、この共有を強制しないどころか、たえず「哲学的常識」に疑いをかけ、問い直すことを特徴とする。「無知の知」というソクラテスが唱えたとする観点が、常に哲学の活動を支えている。

3つ目は、生の現実を見つめる思考の営みである、ということだ。「驚き」が哲学の出発点にある、といわれるように、あるときふと、自分が前提にしていた生の現実に対する見方に「とらわれ」があることに気づき、そこから自由になり、新たに考え直していくプロセス、これが哲学の実践的意義である。メルロ=ポンティが「真の哲学とは、世界を見ることを学びなおすことである」(『知覚の現象学』※孫引きです)と述べたらしいが、具体的な生のただ中にこそ、哲学の営みがある。

ここには、哲学の有用性という視点も、科学との違い、などというものもない。哲学の実践を見つめ、端的にその特徴を挙げており、非常にポジティブな哲学の捉え方に感じた。もちろん、ただ1人で思考を徹底することは、ドグマに陥る危険性がある。それゆえに、哲学は分野を問わず対話を続けることが、もう一つの特徴としてあげられるのではないかと思う。それが先人の知恵の結晶としての哲学書でもかまわない。哲学にもさまざまな下位分類があり、時に激しく対立し合うこともある(たとえば、一時期の分析哲学vs.大陸哲学など)もあるが、この特徴付けは、哲学を好む人々が共通して受け入れられるものではないか、と思った。